hickey

※このお話はキリ番の部屋にあるリクエスト小説、
gemstone』と『Wedding』の間の出来事です。
 読んでない人は先に見てきて欲しいな。

 

 

 いつもの昼下がり。

 彼女はいつものようにティータイムの仕度をしていた…もちろん、2人分――自分と、恋人の分のカップを、である。
 今日は骨董屋は休業日…ジラスとグラボスは、何でも会いたい人がいるとかいって出かけていった。…帰ってくるのはおそらく明日、もしくは明後日だろう。

 いつもの、何の異変もない昼下がり。

 だが、フィリアは何だか胸騒ぎを覚えていた。
(何なのかしら、この鼓動…切ないような痛み―。)
 それは巫女としての勘なのか、それとも女としての勘なのか…。

 

「フィリアさん。」
 その時だった、彼女の恋人が現われたのは。
「あ…ゼロスッ、ちょうどティータイムの準備が出来たところなんです。」
 今日はアップルパイですよ、と近寄ってくる恋人の白い手を引いて腕の中に納めた。
「ゼロス…?…ん…っ」
 有無を言わせず唇を重ねる。フィリアは少し驚いたものの、すぐに彼の背に腕を回して応える。

ハァ…

 しばらくした後ようやく解放されて甘い息を吐くフィリアだったが、ゼロスはそのまま彼女の首筋へ唇を移していった。
「ゼ、ゼロスッ?!」
「フィリアさん、僕と…僕と契りを交わしてください。」
 ゆっくりと、彼女の身体をソファーに崩しこみながら。
契りを交わす――
 いくら何でもその言葉を知らないフィリアではない。それは巫女であった自分には禁じられていたことで、もちろん経験などしたこともないこと。
 そんなことを考えているうちに、ゼロスの手が自分の服を解いていく。
「あ……ゼッ、ロス…待っ……」
 慌てて獣神官を手で押しとめる。
「フィリアさんは僕に抱かれるの嫌、ですか?」
 フィリアがその目に見つめられるのが苦手だと知っていて、彼はアメジスト色の瞳で彼女を縛り付ける。
「嫌じゃないですけどっ、でも何でこんないきなり……」
 自分の下で、困惑した表情の娘に、
「いきなりじゃないです。ずっと気にしていました…いつか僕の腕をすり抜けて、どこか遠くへ行ってしまうのではないかと。そんなこと許せはしない、耐えられはしない…だったらその前に、檻の中に閉じ込めてしまおうと幾度も――考えていました。」
「ゼロス…。」
 それを本気で自覚したのはつい先ほど、獣王と話をしていたときだったが。己の上司がフィリアを、『私が磨きをかける』と言ったとき、今まで感じたこともない位の、説明しようのない衝撃が身体の中を走った。

―――アレハ、ボクノモノダ―――!

 …けれども上司が言ったとおり、彼女が自分のものだという証拠はない。だから欲しくなった、彼女が自分のものだという証、自分のものだという徴が。
「ゼロス…―。」
 知らなかった、彼がこれほどに自分を想っていることなど。逃げられるはずがないのに、この瞳…この腕から。
「貴女が望まないのなら、無理強いはしませんが…。」
 せめて徴は付けさせてくださいね、と胸元に顔をうずめて強く吸う。
 肌に残るは薄紅の跡――。
 ゼロスはその跡を確認すると、名残惜しげにフィリアの胸元から離れた。
「止め…ちゃうんですか……?」
 切なげな顔で自分を見上げる竜の巫女に、
「だってフィリアさんまだちょっと恐い、んでしょう?」
 彼女から発せられる、ごく微量の戸惑いの感情。少々落胆させられるものではあるが―。
「だってっ!こんなお昼下がりからいきなりそんなこと言われたら、誰だって驚きますっ!!」
「じゃあ夜だったらよかったんですか?」
 火竜王の巫女はウッ、と詰まってからややあって、小さくコクンと頷いた――。

 

 その晩は、月も地上に光を照らすのをボイコットする――新月だった。

 フィリアはシャワーを上がり、小さなロウソク1本を手にして寝室へと向かう。扉の前まで来ると、フゥとロウソクの灯を消して深呼吸をする。
 神への信仰を止めたわけではない。幼い頃から教わってきた火竜王への礼拝は、毎朝欠かさず行っているし、今更変えられるものでもない。けれども…大きく変わったこともある、火竜王への礼拝と同じくらいの頻度に渡り教わってきたこと―冷酷無慈悲、悪魔の中の悪魔、降魔戦争におけるドラゴン・スレイヤー…獣神官ゼロス。あの頃は、まさか自分が彼と関わり合いになるなんて思ってもいなかった。
 出逢いの印象は最悪。火竜王様を扱き下ろすばかりかスィーフィード様まで冒涜する始末。ゴキブリだし、生ゴミだし、私のことばっかりイジメるし――。
(それでも…)
 それでも。

 一番大切なひとだから――。

 

ガチャ…

「…ゼロス?」
 扉を開けて、中の様子をうかがう…ベッドの上にゼロスはいなかった。
「いないの…?」
 部屋の中央まで進むと突然背後からポンッ、と軽く押された。フィリアは小さく悲鳴を上げて、ベッドに倒れ込む。シーツの上で体制を立て直し、顔を上げるとそこには恋人が立っていた。
「もうっ、脅かさないでくださいっ!」
 がしかし、ゼロスはフィリアに覆い被さって、
「それはこっちのセリフです。ドアの前で3分間も何してたんですか?」
「それは……秘密です。」
「フィリアさん…僕に隠し事するんですか?」
「今までさんざんイジメてきた罰ですよ〜だっ!」
 小さく舌を出して、悪戯っぽくウインクして見せる。
「フィリアさん〜〜っ!!」
 コロコロと、まるで子犬がジャレ合うように―…やがて自然に2人の唇は重なる。

 

 腕に掻き抱く娘は、甘い花の薫り――
 暗闇でも明るく輝く黄金の髪に、白い肌に、唇に…ゼロスは幾度となくキスの雨を降らせる。
 首筋に、胸元に、感じる熱い刻印――。
 愛していると、愛されていると確信できるその熱さは躰中を駆け巡り、火照りを呼び覚ます。
「フィリアさん…貴女全てが甘い、ですね。肌も香りも、声も―…。おかげで糖分過剰摂取になっちゃいそうですよ。」
「人間じゃないくせに……あっ…
……!」
 全身を包みこむ、温かい闇――
 今までイメージしてきた“闇”を見事に覆す温もり…この温もりが、自分に対してだけのものだと知っているから―…。
「ゼッ、ロ・ス…」
 言葉で、心で、身体で。
 伝えたい、私の精一杯の気持ち―…。

『アイシテマス』――

 

チュンチュンチチチ…

「ん……」
 窓から差す日差しと小鳥のさえずりに、竜の娘は目を覚ました。
「おや、起きましたか?」
 自分を包みこんでいる、心地よい温もり…その主が声をかける。
「ゼロス…まさか、ずっと寝顔見てたんですか?」
「はい。フィリアさんは何してるときも可愛いですから、見てて飽きないんです。」
「だからって…〜っ、もう知らないっ!」
「はいはい。それじゃ、起き掛けのモーニングコーヒーでも飲みますか?」
 いつの間にかゼロスの手には湯気立ったコーヒーカップが2つ。そのうちの1つを受け取り彼の腕の中で、その香ばしい薫りときらきら輝く朝の光を愉しむかのようにゆっくりと味わう。
 それは何物も邪魔することなど出来はしない、彼らだけの時間――…今日も骨董屋は休業にして、2人は昼までゆっくり過ごした。

 

 幸い、獣人たちが戻ってきたのはお昼下がり―
「あれ、姐さん虫刺されですかい?首筋が赤いですぜ。」
「へっ?!あっ、あああぁぁ、まあ、その、ええ…。」
 グラボスに指摘され、慌てて首筋を抑える。それは昨夜の名残…ゼロスとの愛の証――自然に恋人と視線が合い、微笑みがこぼれる。
 何もわからず、頭にクエスチョンマークを浮かべている獣人2人を残して―。

 

 

 

 

 

 

 

 

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