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新しい年を迎え、賑やかな元日も終わりに近づいた夕暮れに、いつもと何ら変わりなくその魔族は現れた。
｢フィリアさん♪明けましておめでとうございます ｣
何千年の時を生きる魔族がいちいち新しい年を迎えるたびに挨拶することもないのだが、それはそれ、ご愛嬌ということで。
｢おめでとうございます…って、今頃来ても、もうおせちもほとんど残ってませんよ？｣
散らかった室内を片付けていたフィリアは手を止め、その声の主に振り向きながら言った。獣人２人と転生したヴァルだけでも大変な食糧なのに、そのうえあのリナ達までも訪れてきて散々食べつくしていったのだ。
｢えぇ、構いません。フィリアさんに逢いに来たんですから。…ところで、その他の方々は…？｣
｢リナさん達はつい先ほどまた旅立っていかれましたし、ヴァルはジラスさん達とお年玉めぐりに行っちゃいましたから、帰って来るのは明日かと…。｣
そこまで言ってハッとなる。不幸にも、ゼロスがニヤリと微笑んだ…ことに気付いてしまう。
｢ということは、今日はフィリアさん１人なんですね…。｣
｢なななな何を…。｣
しかしゼロスはフィリアの問いに答えるではなく、彼女の来ている着物を指し、
｢お綺麗ですね、着物。よく似合ってます…。｣
｢へっ？あ、あ…ええ、ありがとうございます…。｣
素直にお礼を言うフィリア。
｢一回、この帯をクルクルクル〜ッと巻き取って見たかったんですよね〜♪｣
｢そんな変な願望持たないでくださいっ！｣
真っ赤になって叫ぶ彼女を愉しそうに見つめながらヒョイと抱き上げ、
｢２人きりですし…さっそく寝室行きましょうか♪｣
｢や〜っ、ゼロスの馬鹿馬鹿ぁ〜！！｣
｢…もう…帯、こんなにしちゃって……。｣
ベットの上で、床に散らばった長い帯を眺めながら恨めしそうに竜の娘は呟く。結局、獣神官の願望は達成されたらしい。
｢これ、着付けするの大変なんですよ…？｣
｢ちゃんと後で僕が着せてあげますから…。｣
｢できるんですかぁ？………っ、ん ん！｣
襦袢(じゅばん)から覗く白い肌に口付けを落としていくゼロスは、すでにフィリアの言葉を聞いていなかった。露わ(あらわ)になった美しい脚を舌で舐め上げながら、
｢フィリアさん…今日はあえて全部脱がさずに、しましょうね。｣
｢な、にを……っは、あん…っ！！｣
大晦日から元旦にかけてほとんど寝ていなかったので、今日はゆっくり眠るつもりでいたのに…っ！！――どうやら寝させてもらえそうにない。
(元日からこんな調子で…どうするんでしょう……？)
フィリアの思考が働くのも辛うじてそこまでだった。
チュンチュン、チチチ…
｢ん…っ｣
小鳥のさえずりで目覚めたフィリアは、未だゼロスの腕の中だった。
｢おや、お目覚めですかフィリアさん…大分お寝坊さんですよ？まぁ、ヴァル君たちはまだ帰って来てないからいいですけど…。｣
｢誰のせいだと思ってるんですかっ、誰のっ？！まったくもう、新年早々なんでこんなに…｣
｢いけませんか？フィリアさんと姫始めしたかったんですよ。｣
｢…姫……？｣
ついさっきまで怒り顔だった彼女が次の瞬間にはキョトンとして自分を見上げているので、まぁ何てコロコロよく表情の変わる可愛い人なんでしょうと思いながら微笑み、
｢姫始め、ですよ。新しい年の始まりに、男女がその年初めて交わることを云うんです。元々は別の意味もあるそうですが…。まぁ、それをフィリアさんとしたかった訳なんですよ。｣
｢…ひょっとして、それをセリフにして色んな女性のところ渡り歩ってません？｣
疑惑の眼差しを向けながらそんなことを言う竜の娘に獣神官はずっこけた。ヒクヒクと起き上がりながら、
｢そんなことしてませんよっ！失礼なっ！！もっと犯されたいんですか、フィリアさん？！｣
ブルブルブルブルッ！！
必死に首を横に振る彼女を見つめながら、ため息１つ。
｢フィリアさん、貴女自分がどれだけ大変なことをしてしまったのか分かっていませんね？…貴女はこの僕に感情を与えたんですよ、『愛する』という魔族にとっては最も危険な感情を――この責任は…貴女の一生をかけて取ってもらいますからね。｣
｢うみゅぅ…。｣
ゼロスの真剣な眼差しに、ただうなずくしか出来ないフィリア。するとその視線は急に和らいでいつもの悪戯っぽい笑顔に戻り、
｢それじゃ、ヴァル君達が帰ってくるまで、もう一回しましょうか♪｣
｢ちょっ？！ちょっと嫌〜っ、あっ、あぁ……んっ！！｣
ちなみに…それから毎年、フィリアの元日の夜はゼロスだけのものとなった。
｢あ、別に元日じゃなくてもフィリアさんの夜は僕のものですけどね。｣
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